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コンセプト深堀インタビュー#03|靴にこめた想い

設立10年を迎え、ブルーオーバーはコンセプト文をアップデート。新しいコンセプト文には、ブランドの背景や物作りの考え方、そして履く人と共有したい思いを込めています。

【コンセプト全文】

2500文字以上とかなり長い文となったコンセプト。このコンテンツでは執筆したブルーオーバーのデザイナー渡利とスタッフ江川と二人でその内容を掘り下げていきます。

人物紹介

渡利(ワタリ)
ブルーオーバーの発起人であり、デザイナー。たまの趣味は木彫り。愛車は初代ホンダシティE-AA。

江川(エガワ)
ブルーオーバー / ストラクトのスタッフ。休日は手芸を楽しむ。作った物をすぐ使えると嬉しい。


#02民藝との共感へ

江川
前回は民藝とは何か、そしてそこに込められた概念である「健全な美」に共感した渡利さんとブルーオーバーに共通する要素を探りました。今回は、その思想がどのように具体的な道具(スニーカー)に落とし込まれているのかを探っていきたいと思います

渡利
はいー。お願いします

デザイン

次に、ブルーオーバーが施すデザインとは何か。それは、あたりまえをデザインする。つまり、靴としては「快適な履き心地」であるということです。

例えば、日本人の足型に合わた木型を削る。履けば履くほど足に馴染む素材を選ぶ。足を曲げたときにストレスないように型紙を設計する。走る、ではなく、歩くために最適なソールの硬度を設定する。流行に左右されることなく履き続けられる飽きのこない外観。

江川
この部分では、ブルーオーバーがどのようなことを考えて、靴作りをしているかについて触れていますね

渡利
スペシャルな機能ではなく、当たり前の機能。それを満たすことが大事だと考えています。僕らの靴は、「歩く」という最も当たり前の動作に向けて設計しています。だから特別ではなく、当たり前の機能をちゃんとすることを意識してますね

江川
速く走る!とか、跳ぶ!とかではなく、当たり前に歩くこと

渡利
そう。当たり前に。でもね、それってとても難しいなとも思えたりします。例えば、非常に”ふわふわ”した履き心地の靴を履いたとき、はじめ「おおっ!」っと思ってはもらえるけど、その”ふわふわ”、長く履くとかえって疲れるんです

江川
そうですね。この部分、店頭でお客さまに説明すると驚かれることが多いです。わたしも初めて聞いた時は目から鱗でしたけど、これまで履いてきた”ふわふわ”靴をふり返ってみると、たしかに疲れてたかもな~って、妙に納得しました


渡利
“ふわふわ”ってことは、足を支えるソールが安定していないという状態なんだけど、その場合、足の方がその不安定を補おうと常にバランスをとる状態になっていて足が疲れてしまう。でも履き始めはそのスペシャルな”ふわふわ”した機能の方がインパクトがあって、いいなって思われる

江川
極端にいうと、ベッドの上で歩くのが疲れるのと同じ感じですかね。走る時には、衝撃を吸収してくれる”ふわふわ”は必要なんですけどね

渡利
一方ブルーオーバーは、履いてみて「ふんふん普通だな」ってなる。すると、その良さってわからないですよね

江川
むしろ、ランニングシューズと比較したら、最初に「なんだこれ、硬いな」って感じる人が多いかも(笑)

渡利
でもこれは「歩く」と「立つ」という動作において、程よいバランスで設計した「硬さ」なんです。それで、長く履いてみて初めて、「あれ?これいいじゃん」ってなる。良さがわかってもらうまで、結構長い時間が必要なんです

江川
それは、ほんとにそうというか…

渡利
そういったことも含めて、靴ってのは履いてみて、時間がたってその良さがわかるっていうのがなんとも言えない難しさがあるなーって思います。
それで、僕が一番いいなって思うのは、「いつの間にかよく履いているな、この靴」っていう靴になれること。気付いたらレギュラーっていう声が一番うれしいです

江川
何足も持ってます!ってお声も、「良さが伝わったんだ」って、本当に力になりますね

そして次に大切な要素は、「長く使用できること」です。長く使用していただけるように、丈夫な素材を選び、つま先やカカトの芯材もしっかりとしたものにする。モデルによって、削れにくい底材を採用したり、交換できる製法を用いる。それらは当たり前のようではありますが、簡単には実現できないものでもあります。ブルーオーバーが施すデザインとは、快適にいつまでも長く履き続けられる靴をデザインすることなのです。

江川
ブルーオーバーの靴は、資材一つ選ぶにしても一気通貫する理念がある。それはとても耳障りの良い話しですが、価格とのバランスを取るのが大変ではないですか?

渡利
履き続けた先を見据えての話ですが、価格のことを考える一方で「良く履く靴だからこそ、長く履ける靴でありたい」。そっちのバランスも考えていて

江川
…口調から察するに、価格とのバランスより「履きやすさ」と「長く履ける」この2つのバランスの方が大変そうですね

渡利
そうやね(笑)そのための見えない部分の仕様は吟味してるけど、バランスを取ることは簡単じゃない。
例えば、長く履くためにはアウトソールの耐久性が高いものでなければならないですよね。でもそれって、物としての重量は重くなるんです。それは快適性を失うことにつながります。反対に軽量のアウトソールを使用すると、耐久性が犠牲になって、早く削れてしまうというデメリットがでてくる。だからこそ、「履き心地のよさと長く履けるバランス」の答えの出し方はブルーオーバーの特徴であるような気もしています。まぁ、見えなくてわかりづらいんですけど(笑)

江川
そういう要素って得てしてトレードオフというか。特に靴はハードな使い方を考慮するとあっちが立てばこっちが立たない、なんてことになりがちですよね。歩きやすさも長く履けることも両方大事にすると、相反する要素を詰めこむことになってしまう。
でもどちらかを取って片方を捨てるのではなくて、ブルーオーバーは良い塩梅を常に探し出していて、長く履けるようにもしてるけど、快適な履き心地も追及している。という認識でいいですかね?

渡利
(笑)はい。そうとしか言えない…

快適であること
私は、靴というモノはとても不思議な製品だと思うことがあります。靴は履く人の体を外の世界とつなげ、運ぶ道具です。身体と地面を繋げる境界線を跨ぐ、唯一無二の存在とも言えます。楽しい時も、つらい時も、どんな時も常に時間を共有し、その人のありのままを受け入れます。そんな靴というモノに、私は特別こころ惹かれていました。
私は時折、高校時代に大切に履いていた靴を眺めることがあるのですが、その当時の記憶を思い出すことがあります。記憶とともに蘇る感情は、懐かしさだけではなく、愛情にも似た感情です。履き込まれた靴は、文字通り、苦楽を共にした友のように感じるからでしょうか。ブルーオーバーも、履く人が思い出を重ねていくことができるように、つねに履いていたい思ってもらえる、快適な履き心地をめざして設計しています。

江川
ここを読んでみると、確かに靴って不思議な感じがしますね。ある種、乗り物みたいな。車とかに近いのかな?
なんていうか…人によっては、靴は履ければいい、車は動けばいい、と考える一方で、いやこの靴がいいんだ、この車の乗り心地がいいんだって、こだわる人もいる。しかも、一緒に移動するからその分思い出もできる。そんなところが似てるような

渡利
うーむ。たしかに。そういわれてみれば、似てる気がするな

江川
渡利さんも、なかなかお目にかかれない車に乗ってますしね

渡利
そうやね、愛車のシティはちょっと不便だけど、それでも乗ってるのは気分があがるから。不便なとこには目をつむって、お気に入りの要素だけ見て選んだ。
靴も車も外に出かけて乗ったら最後、戻ってくるまでお付き合いしないといけない。履き終えたあとのお疲れさん感もあるよね。たしかに両方、そういった部分に愛着わくように思えるな

江川
……。
渡利さんにウケるかなと思って車の例え出したんですけど、実は車乗れないんですよね、わたし

渡利
のらんのかーい!

江川
あはは。いやでも、話しに出た「お疲れさん感」は、わたしも感じます。持ち物の中でも靴は、なんか愛着湧いちゃって簡単には手放しにくいし。手入れしてまだ履けないかな?って

渡利
僕が高校時代履いていた、サイドの穴がなぜかちっさいボロボロに履きこまれたスタンスミス(本物だとおもう)は、今でもお家にひっそりと飾っております。ヴィンテージでもなんでもないので、人が見たら、ただのボロボロのスニーカーなんやけど。完全に僕だけの思い出ですわ

長く履けること
履き込まれた靴には、人の油分や、自然にさらされることで生まれる手沢やなれといった味わいがあらわれます。長く履き続けられるように作られた靴というのは、その時間分だけ手入れが行われ、よりたくさんの味わいをまとうことになります。手入れの行き届いた靴を前に、私はそこに豊かさを感じとります。

江川
この部分を読んで大きく頷いたんですけど、真っさらな靴は勿論かっこいいけど、大切に履かれている靴は、格別の雰囲気がありますよね。
雑誌を見ていて、この靴素敵だな~と思ってクレジットを見たら、新しい衣装の靴じゃなくて、モデルさんやスタイリストさんの私物だったりする、あの感じというか

渡利
僕も、手入れされ履きこまれた靴の姿ってめっちゃカッコいいなって思うんですよ。ブーツや革靴なんか特に。あーカッコいいなーっておもいますね。人はかっこよく年をとりたいっていいますけど、靴にもかっこよく年をとってほしい。だから、そんな風に育つスニーカーをつくりたいんですよね

江川
折角長く使えるように作っているわけですし、子どもができて、その子にブルーオーバーが履き継がれるとかできたら、すごくいい感じですよね

渡利
そんなん最高やね!

感覚的ではありますが、ものを大切にするということは、そのものだけではなく自分自身にも心地よさ、やすらぎ、あたたかさを与えてくれるのではないでしょうか。ブルーオーバーが長く履き続けられる靴であるということは、履くほどに表情豊かになり、履き続ける人にこころの豊かさを与えてくれるようなものであろうと思えます。

江川
心の余裕があるから、身の回り品を大切にできる。のではなくて、身の周りの物を大切にすることがやすらぎや心地よさに繋がっているってことでしょうか

渡利
そうでありたいとも思っています。靴に限らず、モノというのは多くの人の手でうみだされた結晶のようなもので、モノを通じて作る人と使う人のコミュニケーションをとる媒介とも考えています。モノをモノとしてみるのではなく、モノを通してヒトをみる。そういう気持ちを抱くことで、豊かさの種を見つけててもらえたらいいなと思っています

江川
履く人に、大切にするだけの価値があると感じてもらえるような…ブルーオーバーは、そんな靴作りをしていくということですね


今回、ブルーオーバーのデザイン――中でも、歩く事に重きをおいた履き心地の設計や、長く快適に履くための素材の選定について、デザイナーの考えを紹介しました。


「靴としてのあたりまえの機能」をよく満たすことが、ブルーオーバーの靴づくりの考え方であること。派手さや豪華さは無くとも、その考えに基づいて一つずつしっかりとつくられた靴を、履く人に大切に感じてもらいたいと、ブルーオーバーは望んでいます。


それと同時に、履く人にとって思い出になる靴をつくりたいという渡利の考えを、感じ取っていただけたのではないでしょうか。

ブルーオーバーの靴は作る人から使う人へ、やさしく語りかけているようなスニーカーだから、ただ履くための靴ではない。ではブルーオーバーは、履く人に何を感じて欲しいのか。最終回にあたる次回では、「あたりまえで特別な靴」をつくるブルーオーバーの、履いてくれる皆さまへのメッセージについて触れていきます。

#04履いてくれる皆さまへ

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コンセプト深堀インタビュー#02|民藝との共感

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【5000文字】第二回はデザイナーが影響を受けたとされる民藝について、詳しく語っていただきました。

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コンセプト深堀インタビュー#04|履いてくれる皆様へ

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【3000文字】最終回は、どんな人にブルーオーバーを届けたいと思っているのか。履いてくださる人に、何を感じて欲しいのかを、渡利さんに聞いていこうと思います

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