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靴屋のこばなし#01|私の仕事について

ZUCCOZUCCO
ZUCCO
ブルーオーバーのサンプル職人。型紙から、縫製、製靴までハンドメイドで靴を作り上げる。工場手配、資材段取りも行っている。
@blueover_zucco

 

この連載は、私の仕事――つまり、靴をつくるということに関して、できるだけわかりやすくお伝えしたいと思いnoteに書いたもの数回分を、まとめたものです。

<私の仕事について >

靴を作るといっても、私の場合、毎日靴を作っているわけではありません。私の仕事は『木型にデザインをのせ、パターンを作成。量産の準備・段取りをし、製品にする。』ことです。レディースの靴ブランド【AROA】も、スニーカーブランドの【blueover】も、毎年たくさんの新作を出すのではなく、新作モデルも定番にしていきたいという意志で開発をしています。新作モデルや別注モデルを作るのに、結構な時間をかけています。デザインをもとにパターンを作成した後、手作業で裁断・縫製・釣り込み・底付けをして試着できるサンプルシューズを作ります。

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試し履きと修正を重ね、最終サンプルが出来たら工場さんと話し合いながら、パターンの微調整と量産用の材料手配をしています。靴製造はたくさんの工程があり、分業制です。裁断に必要な抜型、木型、副資材、中敷き、中底、ソール(本底)、紐、箱、それぞれに会社があります。そして各工程に職人さんがいます。

裁断→縫製→釣り込み・底付

たとえば釣り込み・底付のひとつの工程でも、何件かお願いしている工場があります。スニーカーが得意な工場、ドレスシューズが得意な工場、バイクのブーツが得意な工場、レディースパンプスが得意な工場。得意な分野を確認しながら、どこの工場で量産をお願いするか決めています。日本各地にある靴団地の工場や材料屋さんをまとめていき、靴が出来上がっています。

靴の仕事をさせていただくことで沢山の工場さんと出会い、一緒に靴を作っています。AROAもblueoverも、その繋がりのおかげで出来ています。自分が関わった靴が沢山の人の手で繋がれ、靴になり、お客様の手に渡る。いろんなこともあるけど、やっぱり好きな仕事。

<『やってみたら人生変わる』ときもある>

かれこれ10年くらい前、20代後半の私は、個人で靴を作って販売したり、靴やカバンの修理を受けて生活をしていた。

イベントに出店したり、古着屋さんのオリジナルの靴を作ったりもしていた。とはいっても、無名の私はいつも靴が売れるわけでなく、深夜や早朝のアルバイトもしつつ、生計を立てるという日々。何年か経ち、そんな暮らしで気持ちを保つのに精一杯だった。

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そんなとき、インターネットで見つけたのがblueover。靴という狭い業界で、聞いたことがない名前、そして大阪のブランド。気になった。

一方で仕事がほしい私は、いろんな人との繋がりを求めていた。当時流行っていた異業種交流会を調べていたら、blueoverという名前が目に留まった。blueoverの人たちも参加するというので、ぼろぼろのスエットと短パンでかなりへんてこな格好で参加した。

そこでblueoverのメンバーと繋がり、仕事をもらい、今では自分もメンバーの一人として動いている。

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あのとき、一歩踏み出したから、大きく人生が変わったという確信がある。プライベートも仕事も180℃といっていいくらい変わった。

10年経ち、すっかり30代後半なのだけど、あのときのように『やってみたら人生が変わる』はずなのだ。と、自分に言い聞かせる。

<ミシン、漉き機とあの日の思い出>

大阪市内のうつぼ公園近くにあるblueoverの旗艦店『struct』ではもちろんblueoverの靴たちが並んでいます。

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お店の奥には私の作業場として作業台やミシン、漉き機を置いています。その作業場ではサンプルを作るために縫製したり、底付けしたりをしています。型紙の作成や修正、革の裁断は別の場所で行っているので、いないことも多々あります。もし、ご来店の際にお会いできましたら、ぜひお声をかけてください。

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ミシンと漉き機

写真の手前から漉き機、ミシン、作業台が並んでいます。

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ミシンはポストミシンという製靴用のミシンです。漉き機は革を薄く漉く機械になります。詳しい機械の説明は別の回でお話しますね。

靴屋になりたかった私

大学生のとき、靴作りを仕事にしたいと思い、志しましたが、私は農学部で遺伝子の研究をしていました。

大学に行っているのだから、靴の学校に行くと親には言い出せず、お金もなく、靴の企画はできないかと就職先を探しましたが、美術系の出身者しか公募は受け付けておらず、靴の販売員になりました。販売員をしながら、休みの日は靴作りを職人さんに教えてもらう日々を1年半続けていましたが、靴作りにもっと携わりたくて、販売員を辞めました。たぶん23歳か24歳。

仕事を辞めた後は靴作りを教えてもらう時間を増やしました。平行して、地元から離れて暮らしていたので、アルバイトもしていました。
深夜や早朝バイトをしながら、日中は靴作りを教えてもらう。
ネットカフェや、スーパーの品出し、宅配便の荷分け、食品工場、バーの接客など色々しました。

しかし、そんな両立生活は、睡眠不足を招き、長く続けることは出来ませんでした。下宿代、光熱費で、バイト代はほとんどは無くなりお金が無かったし。  

なりたかった自分とのギャップを埋めるため

大学生のときに描いていた自分と、実際の自分のギャップが大きくて、辛いときもありました。そんななか、ミシンと漉き機を見つけました。

当時、靴作りを志す人が割と多かったので、ミシンや漉き機は品薄でした。
欲しい欲しいと、アンテナを張っていた中のいただいたお話でした。

他にも欲しいという人がいたようでしたが、情熱が伝わり、譲っていただけることに。ミシンは確か22万とか。漉き機は7万だったかな。

漉き機は12万くらいが多かったので、状態も良かったし、破格で、姉にお願いして、お金を借りて、ミシンと漉き機を手に入れました。

※作業台はミシンを買ったときに、その職人さんに押し付けられました。処分にお金もかかりますもんね。

いまだったらもっと安く手に入ると思います。姉に毎月少しずつ返しました。(姉に感謝)ミシンと漉き機が家に来たおかげでモチベーションが上がり、個人で受ける仕事の幅が増えました。修理屋さんで働いていたときも、自分のミシンがあったから、効率がぐんと上がりました。

そして今

昨日、昔靴作りを教えていただいていたお師匠から、出産のお祝いで、子どもの靴をプレゼントしていただきました。いまは徳島県にお住まいですが、仲良くしていただいています。

ご迷惑をたくさんかけたけど、仲良くしていただけるのは、本当にありがたいことです。あのとき、ミシンと漉き機を買って、個人的に仕事を受けたり、自分の靴を作って販売したりしたことで、もしかしたら少し認めていただいていたのかもしれません。

靴作りと関係ないアルバイトはただのお金のためだけど、ミシンと漉き機があることで、靴やカバンに関わることで仕事を受けれますもんね。

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靴をプレゼントいただき、色々思い出したのでした。お金がない私をお家に呼んでいただき、サンマをご馳走してくれたときもあったな。

何かなりたい自分があるとき、やりたいことがあるとき、無理矢理にでも自分を投じると状況は変わるのかもしれません。

<大きくなったらなりたいもの>

わたしには子供がいます。「大きくなったら何になりたい?」と子供たちに聞くと、「ゾウさんになりたい~!」とか「サッカー選手」「忍者になる!」とか「お寿司屋さん」とか「ペットショップ」とかいろんな夢にあふれている。

親としてはいつか没頭できることが見つかってほしい、応援したいと思っていて、将来の夢のことはたまに我が家の食卓のネタになる。最近は、「ちゃーちゃん(私のコト)は大きくなったら何になりたいの?」と逆に聞かれることがある。

いきなり聞かれて

「え!?」

と言葉に詰まった。

もう自分は大きいけどな、、とツッコミつつ、なりたいものって別にいくつになってもあっていいんだ、と子供たちに気付かされた。小さい頃の夢はピアノの先生とか、幼稚園の先生とか、アイスクリーム屋さんとか女の子っぽいものだった。

大学のとき、革に魅了され、靴作りに携わりたいと、靴の世界に行くことを決めた。いろいろな人とのご縁でblueoverにいて、そう考えると、そのときの夢は叶った。そこからは、夢って意識していなかった。

大学生の時の夢ははっきりいって自分中心だった。我が我がだったあの頃。

今は何かなと考える。今は自分の欲望を満たすために作るというのは違和感を感じていて、日本の沢山の工場さんと協力してblueoverを続けている。

伝統産業を継承する。このことも私たちにはとても大事なこと。

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ただ、最近はよく未来のために何が出来るかを考えている。明日のため、3年後のため、5年後のため、子どもたちの未来のために、アクションをしたい。自分や仕事を通じて何が出来るか。わたしたちは動き出した。

大きなことはできないけれど、良くしていきたいという気持ちで前を向いていく。

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靴屋のこばなし#02|靴業界について

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【3000文字】こばなし内容。「靴の生産の話」、「靴生産の流れ」、「木型は木型屋さんに相談するべし」  

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