マテリアルコンシャスなデザイン過程
シーズン毎にリリースする、blueoverの限定アイテム。
今回はブランドのデザイナー渡利に、20AWのコンセプトの萌芽からアイテムの完成までを語ってもらいました。
核となるレザーとの出会い、光の反射を考慮したパーツの選定。
そして、「blueoverらしいアンバイ」とは?
スタッフの江川が詳しく聞きます。
江川:今回は2020年の秋冬に発売したシーズンアイテムについて、blueoverのデザイナーに話を聞きます。よろしくお願いします。
渡利:お願いします。
江川:20AWは黒いヌバックをメインに、ソールやシューレースまで黒一色のシリーズですね。
江川:まずはデザインの過程について聞きたいのですが、着手したのはどこからですか? 色や質感などのディテールが思い浮かんだのか、それともシリーズの全体像を作ってから細部に落とし込んだのか…
渡利:今回採用したヌバックの素材ですが、これは我々がオリジナルで革を作ってもらっているタンナーさん(山陽レザー)に行ったとき、たまたま見つけた材料なんです。
革って、作る過程でどうしても多めに作ったりする場合がほとんどで。
江川:予備みたいな感じでしょうか。
渡利:はい。つまり、メーカーさんのオーダーより多く作ることになって、結果使われないレザーが一定数発生するんです。
江川:それは、単純にもったいないですね
渡利:この革はそうした背景の中で発見したんですが、とても上質で良い革。これは靴にしたらカッコイイものが生まれる、と感じて。
それで、交渉して使わせていただきました。
江川:ということは、そのヌバックに出会って、それを使うことが念頭にあって…
渡利:そうですね、今回の企画は”ヌバックありき”でスタートしたって感じですね。
江川:確かにそう言われると、オールブラックはヌバックを引き立てる構成になっていると感じます。
江川:こういったシーズンのテーマは、渡利さんの内面の発露というか…自分の中から出てくるものなんですか? 流行などの外的な要素も取り入れるんでしょうか。
渡利:流行は意識はしますが、ブルーオーバーに関してはそこまで強く反映することはないかなぁ。だけど、自分自身の日々の積み重ねで意識している考えや想いは、色んな形でプロダクトに落とし込んでいます。
江川:ブルーオーバー、もうすぐ10周年ということもあって過去のシリーズを見返したりしているんですが、どれも色褪せてないというか。流行を追っていると、中々こうはいかないのかもしれませんね。
※上の写真は2013年春夏のMikey
江川:私から見た渡利さんの仕事は、「デザイン」と聞いてみんながパッと想像するような、単に色や形を決めることだけではなくて、その時々に革なんかの素材を見極めたり組み合わせたりするところは料理人に近い気がしています。
渡利:そうですね・・・
ブランドコンセプト的にも自身的にも「デザイン」というものが前に出すぎて、製品を邪魔するようなものになってはいけないと考えていますね。確かに素材の良さを引き出すっていう意味では料理人的な発想に近いかも(笑)
江川:だけどそれだけじゃ、普通すぎるものが出来上がりがちなので、そこで小さじ程度に個性を付け加えるのがブルーオーバーらしいアンバイかもしれない。
江川:先程、黒のヌバックとの出会いがスタートになったと言っていましたが、今シーズンのオールブラックはその名の通りアッパー、ソール、シューレースにいたるまで黒一色。
その割には、ただ真っ黒に見えるというより、一つ一つのパーツの輪郭は際立って見えます。
渡利:黒は様々な表情をつくる色で、質感や色味含めて本当に多くの種類があるんですよ。今回のオールブラックはヌバック、ミッドソール、シューレースそれぞれが異なる質感、色味を演出しました。
ヌバックってマットな質感でベロアよりも毛足が短い。光の反射加減が本当にきれいな輪郭を生み出してくれるんですよ。
江川:対してシューレースにはロウ引きの紐を採用していて、これは表面がロウでコーティングされていて、光を反射させる。
このコントラストがパーツを際立たせているんでしょうね。
江川:黒色の濃淡的にはほとんど同じでも、光の反射具合を考慮して見え方に差を出してるんですね。
渡利:はい。ミッドソールのEVAの削り出しの断面は光りを吸収して、ヌバックとはまた違った見え方をしますしね。
同じ黒でも素材のコントラストでノッペリした表情をしないように心がけたのはあります。
江川:各モデルのオールブラックはほとんど共通の仕様ですが、マイキーのライニングはいつも通り素あげのピッグレザーになっているのに対して、ショーティTRでは牛革を採用してますね
渡利:そうなんですよ、はじめ全部牛革を使おうかと悩んだんだけど、マイキーはやっぱり豚の素朴さを選びました。
ショーティTRも本来スムース革なら素上げを選ぶんだけど、このオールブラックに関しては牛革を使って、よりシックな印象を与えてたいと思って。ショーティTRの持つスポーティライクな要素と素材の持つ大人な印象をかけ合わせた感覚ですね。
マイキーはその掛け合わせが肌に合わなかったと。
江川:たしかに。マイキーはやっぱりこの白っぽい素あげのピッグスキンがしっくりきます。
モデル毎に、素材の色味を足し引きしてるんですね。
江川:今シーズンはオールブラックのマイキー、マルコ、ショーティTRに加えて、スムースホワイト/ブラックのショーティTRも発売しました。この2色はオリジナルのショーティでも発売していたカラーを復刻したものです。
渡利:これは単純に抑えとかなだめでしょう的なことですね(笑)
やっぱりド定番として、スムースレザーのホワイト/ブラックは作りたいし、ほしいから。
江川:今のブルーオーバーには必要なメンツということですね。
オーセンティックなものにしたい、という気持ちがあるなら尚更、こだわりの部分も多いのでしょうか。
渡利:そうですね、スムースも今回は選び抜きました。やっぱりド定番な素材と色なので、どの革を選ぶかがポイントになります。今回採用しているスムースは兵庫県にある龍野の方のタンナーさんが作った革なんです。
江川:今、龍野という地名が出ましたが、革の質と場所って何か関係があるんですか?
渡利:あまり知られていないけど、レザーって作る産地の川の水の硬度によって仕上がりが異なるんです。
って。タンナーさんが言ってました。(笑)
江川:へ~!(笑) 水質が関係あるんですね
渡利:龍野の革は結構しなやかなものが多くて。
今回採用しているこの革もソフトで”もっちり”したタッチ感の良い革なんですよ。ぜひ皆さんにさわっていただきたい!
渡利:この仕事するまで、「革は革でしょ」って一括りに考えてたんですけど…。
店頭でお客さんに試着してもらったり、自分で履く時に感じるようになったのは、同じモデルでもアッパーに使う革が違うと、意外なほど履き心地も違ってくる。
オールブラック各モデルも、ショーティTRのスムースも、足を入れてそれを感じてみてほしいですね。
江川:インタビューだと、普段話題にしないことも色々聞けて面白い。またやりたいと思います!
ありがとうございました。
渡利:ありがとうございます!