製品開発とピッグスエード。その裏側のはなし
今回、新たに発売になった、アッパーにピッグスエードを採用したマイキーとショーティ。
そのピッグスエードについて、ブルーオーバーのデザイナー渡利自らの言葉で紹介します。
今回リリースしたピッグスエード仕様のマイキーとショーティ。なぜこの素材をアッパーに採用したのか、その良さはどこにあるのかを書きたいと思います。
はじめに素材との出会いですが、このピッグスエードはブルーオーバーの様々なモデルでお世話になっている、ライニング材(靴の内側)を仕入れている革屋さんが扱っている品番の中にありました。
靴の業界だと、豚革は比較的ライニングに使用することが多い素材です。
ピッグは牛に比べて厚みが薄く、通気性や吸湿性の面で、快適な履き心地を実現します。ですが、今回採用したピッグスエードは靴のライニングで使用しているものではなく、革小物などで使われる、少し厚くて艶っぽいのが特徴です。
雰囲気的にはNB社イングランド製やUSA製などに見られるのピッグスエードのような質感、佇まいでしょうか。しっとりとしてタッチ感がよく、艶っぽい感じです。クロム鞣しをベースに、サンドペーパーで起毛加工を施し、オイルを含ませた表情は本当に高級感ある仕上がりになっています。
豚革の良い部分でもあるのですが、厚みが牛革に比べて薄い傾向にあります。通常マイキーで使っているベロアは厚口のベロア、スムースレザーでも通常は1.6ミリといった厚みの革をアッパー材に使用します。
革が厚すぎる場合は漉きと呼ばれる全体を薄くする加工を施しますが、薄い場合は裏打ちという補強材を張り合わせる加工を施します。
このピッグスエードは0.9ミリ程度なので、裏打ちを施した上で強度モニターを行いました。
革の原皮は牛の場合、通常北米などから輸入するのですが、この豚革は国産の原皮から作られています。国内の食用肉として消費されるものから作られた革のため、営みの循環の中から生まれる、健全さのある素材背景ともいえます。
ですがその反面、原皮の供給が不定期になってしまうため、靴の生産スケジュールとしてはなかなか計画通りにはいかない面もありました。
それと、これは実際革を仕入れてみてわかったことなんですが、通常このスエードの意匠面は床面(つまり銀面の裏側)。しかし、届いた革を確認したところ、私は銀面の方が表情が豊かな印象を受けました。
床面は比較的均一で整った表情である一方、銀面は不均等で味わいがあり、かえって革らしい表情だったのです。
そこで今回生産したマイキーとショーティは、すべて銀面を表にして作製しています。
革屋さんが指定した意匠面ではなく、あえて裏面を表に出すのは、製品のチェックを行きわたらせる必要があるため、大きな規模の生産では難しい取り組みです。
生産に使用する原皮を全て実際に目で見て意匠面を決めることは、我々のような小さなブランドだからこそできる判断と言えるかもしれません。
そんなピッグスエードを全面にあしらった贅沢な仕様のスエードモデル。シューレースは蝋引きの丸紐を使いよりシックで味わいある一足に仕上がりました。モデルはマイキーとショーティTRの2型。カラーリングはダークネイビー、キャメル、ネイビーの三色のリリースです。