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これからのblueover #01 | 国内生産

文:渡利ヒトシ(blueoverデザイナー)

はじめに

この執筆はもともと僕が自分の考えをまとめるために、Webメディアのnoteに書こうとしたものを、11周年という節目にあたって、冊子にしようという意見から生まれたものだ。なので、文章中に出てくる発言はあくまで自分の考えを整理するためのものであって、誰かに読んでもらおうと思って書いていないので、わかりにくい点があることを了承していただきたい。また、学術的やエビデンスにのっとったものではなく、個人の経験に沿った主観が強く、その点もご了承いただきたい。(22年6月3日)

追記:

この冊子を年末のゆっくりした時間に読んで頂きたいとおもい、サイトにて連載することになりました。この執筆のあと事業継承問題、アート、福祉について少しづつ学びながらblueoverの活動と重ねることを試してはいるのですが、なかなか思うように物事は運びません。ですが来年には何かしらblueoverの新しいチャレンジをお伝えすることが出来ると思います。

世界情勢、社会が不安定であるなか、自分たちが信じれること、伝えたいコト、出来ることを少しづつでも実行していきたいと考えています。私達は靴を作り、みなさまに履いていただくことを生業としおりますが、履いていただく方に、「靴を履く」ということだけでない価値を提供すること。その価値がこれからの社会にとって明るい状況を生み出すような結果になること、blueoverを履かれることで自身の新たな歩みが出来るようになればと考えています。

物事はすべてうまくいきませんが、それでもあきらめずに続けることに意味があると信じて、来年もまた歩んでいこうと思います。(22年12月11日)


いま考えていること

今、世の中は不安定な要素や解決すべき課題がたくさんある。けれど、自分たちの組織としてその課題にたいして何ができるか、どうするべきかを考え、実行する。これがまず大切なことだと思っている。

僕はもともとプロダクトデザインという仕事に就いて、企業と一緒に商品の企画やデザインを行っていた。それが15年前(2006年)に独立して、11年前(2011年)にブルーオーバーというスニーカーブランドを作った。今ではバトンという法人を経営して複数のブランドを展開するようになった。会社は少人数で売り上げ規模も小さいけれど、自分たちがしたいこと、良いと思えることができるような会社にしていきたいと考えている。

で、これから何を書いていくのかということだが、自分が今時点で描くブランドのあるべき姿を書いていくことにする。なかでも、10年前にデザインからモノウリのきっかけを作ったブルーオーバーについて書こうと思う。

そこでまず、ブルーオーバーについて簡単に説明しなければならないのだが、それはそれで長くなるので、こちらのアバウトから読んでいただければと思っている(コンセプトとしては結構長文)。

 さて、最初にも書いたが、昨今は全世界的にとても不安定な世の中だ。これまで無かったような困難が国内においてもおきている。解決すべき課題は山積している。そんな中でもブルーオーバーはお客様からの支持を受けて続けることができた。そしてこの間に、僕たちはブランドの在り方や、生産体制、これからのことを会社の仲間とじっくりとたくさん話しあった。

他でも言われていることだが、本当に世の中にはモノがあふれている。店頭に置けば売れる時代はとうに過ぎ去り、様々な工夫を凝らして売っていかなければならない。それでも買ってもらうのは難しい。本当に人の消費行動が大きく変化し、モノにおける大量生産、大量消費の時代が終わりを迎えつつあるのを実感している。

国内生産

ブルーオーバーは国内製造の継続を一つの目的として、国内生産にこだわり続けている。その姿勢は今でも変わらない。だが、このブランドを続けてきたこの十年の間、実際にものづくりの現場へ足を運び、目にしてきたことで、ブランド発足当初とは、見える景色が異なるのも事実だ。

僕たちブルーオーバーはとても小さなブランドだ。僕らのような資本の少ない小規模ブランドは、小さい規模感でも持続可能な体制を作る必要がある。

通常、工場に生産を依頼する場合、必ず生産条件というものが存在し、最低生産数とその一個あたりの金額が提示される。

まずはこの条件を受け入れなければ、モノを作ることすらできない。以前はこの数字が大きく、自分たちのような小さなブランドが取り組むのにはなかなか厳しい条件だったのだが、近年では様々な工場が縮小傾向になり、それに伴い生産条件のハードルは下がってきている。この現状は自分たちにとっては都合は良いが、業界としては市場規模が下がっていくことを意味している。どっちが良いかという話ではないがこういった状況は起こっている。

そして、僕らの周りの製造業で働いている職人さんたちの年齢は65歳以上の高齢者である場合がほとんどだ。これは組織の若返りがうまくいっていないということだが、賃金の低下によって、若い人の雇用が生まれていないということとつながっている。

僕らとしても国内生産にこだわり続けたいという想いはあるのだが、想いだけでは継続できないという自覚もある。今ある製靴産業のビジネスモデルから脱却しなければいけないのは、明確だ。

そんな中で、若い人の新しい動きも目にするようになった。最近出会ったタンナー(革を鞣す工場)「セトウチレザー」だ。

このタンナーは30歳近い年齢の井上さんと江浪さんが立ち上げたのだが、ブランドを始めてこの10年、こんなにも若い人がタンナーを立ち上げたというのを聞いたのは初めてであり、驚きであった。

若いタンナー。それだけでも珍しいのだが、セトウチレザーは取引形態も少し変わっている。一般の消費者がタンナーと直接取引することはあまりなく、いわゆる革問屋と呼ばれる中間業者が存在しており、そこと取引することが多い。その理由だが、一般消費者は革を一枚からでも購入したいのだがタンナーでは基本、革を一枚売りという形をとらず、最低でも10枚前後からでしか取引ができない。そのため、革問屋が在庫を抱え、消費者はそこで一枚からでも購入することができるということだ。そしてタンナーは在庫を抱えないため、鞣した段階で完全買い取りという形をとっている。つまり、一般消費者がたんなーと取引することは専門性が高く、かつ希望通りの革が仕上がらなくても10枚から革を買い取らなければならないということである。

そういった理由で、タンナーは表舞台にはなかなか出にくいという理由があった。だが、このセトウチレザーは小売り機能を持たせ、ダイレクトにエンドユーザーとつながると同時に、消費者のオーダーに対して、明確な価格表というものを作り上げた。つまり、エンドユーザーに対してわかりやすい料金体系を提示して、不透明さを軽減させたということだ。そのようなビジネスモデルは業界にはなかったことだ。やはりこれまでのしがらみがない若い人が立ち上げたタンナーだけに、老舗にはない新しい形の革産業に感じられる。こうした取り組みは小さくもあるが、各地で少しづつ芽生え始めている。

こうした背景の中で自分たちの立ち位置は、少量であれど地域の工場が続く限り国内発注を続けながら、これまでの製靴産業とは異なる継続可能な生産体系を作り上げることだと考えている。僕が考えるのはホールガーメントや三次元プリントなどの、新しい生産方法に目を向けること。もう一つは従来のマシンメイド(ミシンを使った人の手による縫製)を維持できるような雇用形態を見つけることだと考える。ホールガーメントなどの技術革新による生産方法は、環境コストも人的コストも軽減されることが前提として考えられる手法なので、実現可能な状況がくれば、積極的に取り入れたいと考えている。

だが、ミシンを使ったマシンメイドは、人の手が必ず必要だ。だが縫製業は高齢化と工賃低下から、どんどん縫子が減少している。縫製だけで見ると、バッグや服といった縫製もあるが、業界としては同じ縫製でもスキルや機械の種類が異なるので、依頼することは簡単ではない。経験上不可能である。

一般的に産地地域の問屋制家内工業と呼ばれる生産体系は、問屋(ここではブランドを所持している会社)からのオーダーをもとに、地域をまとめている胴元がおり、そこから縫製場に割り振ってさばいていく仕組みだ。縫製場は複数人で稼働する小さな工場の場合もあれば、一軒家といった場合もある。

家庭内での縫製の場合、胴元が靴縫製に適したミシンを導入し、スキルを伝授して仕事として依頼するというものだ。以前はこうした経済循環が起こっていたが、今では不景気により受注数が減少。組織立った縫製工場はなくなり、一軒家など個人単位の縫製場が多い。しかしそれも高齢化にともない、問屋制家内工業の終焉は否定できない状態にまで来ているといっていいだろう。

過去にあったビジネスモデルから脱却し、新しい体系をつくり維持していくこと。工場側から見れば、先の「セトウチレザー」さんのような若い人達が新たに事業を起こし、これまでとは違う事業モデルでの縫製業というのもあるだろう。また、工場がブランドを立ち上げ、クラウドファンディングや自社EC、楽天やヤフーなどモールと呼ばれるプラットフォームを活用し、自らが直接エンドユーザーに向けて商品を販売する工場が増えている。

そして、僕たちの会社において縫製業に対してなにができるかと言えば、例えば「縫製とマーケティングができる」といったような複数のスキルを所持する人材をつくり、会社内で機能させること。製造業の賃金安のデメリットをカバーするような形で別の職能を併せ持つ形。

もう一つは自らが胴元となり、就労支援施設などに機械を導入し技術指導する、これまでとは異なる生産体系を作り上げるといったことが考えられる。どちらも簡単ではないのは承知している。正直ビジネスの効率としてみると、ミシンを使ったマシンメイドではなく、技術革新による生産方法を行うべきだと思う。ほめられた策だとは思っていないが、私自身にミシンによるステッチワークの魅力を感じ、伝え残していきたい技術的財産だと考えているので、その点はあきれ顔でも見届けていただきたい。

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