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靴屋の小話#06|革の話し、その二

ZUCCO
ブルーオーバーのサンプル職人。型紙から、縫製、製靴までハンドメイドで靴を作り上げる。工場手配、資材段取りも行っている。
@blueover_zucco

この連載は、私の仕事――つまり、靴をつくるということに関して、できるだけわかりやすくお伝えしたいと思いnoteに書いたもの数回分を、まとめたものです。

<雨の日の必需品、防水レザー>

今日も雨。今年は梅雨だけでなく、夏も雨が多いです。天気が変わりやすく、読めないことも多いので、革製品の靴やカバンなら気を使います。

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そんなときに頼れるのが『防水レザー』。近頃、よく聞かれるようになってきました。

防水レザーとは

以前の防水レザーは、革の表面に加工し、のっぺりとした表情になるので、個人的には好きではありませんでした。革の表情が好きで革製品を持つのに、表面の加工でそれが失われていたからです。

何年前でしょうか。タンナーさんから、『今の防水レザー』を見せていただき、驚きました。今までの(のっぺり)は無くなって、革そのものの風合いが損なわれず、言われても防水機能があるかなんて、分からないものでした。水がはじかれることでしか判断できません。

私たちのblueoverではmarcoとPHOLUSというモデルで、『防水レザー』を使っています。

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老舗タンナーさんに防水レザーを見せていただいてから、美しい艶やかさと防水機能を兼ねそろえる『オリジナルの防水レザー』をともに作り上げました。

革のなめしの段階で、防水加脂を革そのものに染み込ませています。革の繊維が残る限り防水機能は保たれます。見た目と機能性を兼ねそろえた素材です。

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革は水に弱いのが当たり前なったのに、革なら防水は当たり前な時代がくるかも知れません。

雨が多く、天候が読めない日本。防水レザーは今後ますます必需品になりそうな予感。活躍の場を広げていきそうです。

<いいとこどりの混合なめしのこと>

前にお話しましたが、革のなめし方の代表的な方法としてはタンニンなめしとクロムなめしがあります。今日はこれら二つのなめし方のいいとこどりをしたなめし方、『混合なめし』について。

混合なめしとは

コンビなめしとも呼ばれます。2つ以上のなめし方を組み合わせたなめし方法になります。

クロムなめしを施した革をタンニン加工することが多いようです。クロムなめしだけ行った革よりも、少し硬さを足すことができ、経年変化もゆっくりではありますが、楽しむことが出来ます。

タンニンなめしだけを行った革よりも、柔らかみをもち、伸縮性があるので、縫製などの加工はしやすくなります。また、タンニンのみの場合よりも、熱や水などにも強くなります。

つまり、クロムなめしとタンニンなめしの両方の良さが備わった革が混合なめしということ。ただ、クロムとタンニンそれぞれの良い点にはかなわないです。

伸縮性、耐熱性、耐水性など、クロムと比較するとクロムが優れていますし、経年変化や硬さをタンニンと比較つればタンニンのほうが優れています。※混合なめしにおけるクロムとタンニンの割合で、物性が変わってくるようです。

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それぞれの用途を考えてみる

では、実際にどのように使いわけされているのでしょうか。

タンニンなめしのものは靴の底材やベルト、カバンの取っ手やショルダー部分などにも用いられます。タンニンなめしの出来た革は伸びにくいので、その個性が生かされています。

クロムなめしは、カバンや靴のアッパー、車のシートや家具など、幅広く使われています。縫製作業が必要になる革製品にはクロムなめしが多いように思います。色も鮮やかに表現できます。

混合なめしは、クロムと同じようなカバンや靴のアッパーなどの用途で用いられることも多いです。タンニンと一緒に部位使いで用いられることもあります。

たとえば私たちの別のブランドになるのですが、カバンのWONDER BAGGAGEの2waytoteなんかは、わかりやすく、取っ手部分はタンニンなめしのヌメ革、底のはかまと呼ばれる部分は混合なめしです。

WONDER BAGGAGEの2waytoteで考えてみる

取っ手は使っていくうちに伸びてしまったら大変です。タンニンなめしが適しています。底部分はタンニンだと硬くて革が割れてしまうこともあります。またタンニンだとシミにもなりやすく、地面に触れる可能性のある場所に採用するには懸念があります。ですから、さわり心地も柔らかく、加工もしやすく、タンニンに比べるとシミにもなりにくい混合なめしを採用しました。

ベルト部分と比べるとゆっくりにはなりますが、底部分も経年変化をしてくれます。もともと底部分は柔らかさがあるので、経年変化の差は気にならない程度です。

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あとがき

結局、わたしはどのなめし方も良いところがあり、それぞれの良さを理解したうえで、商品に落とし込むことが大事だと思っています。革屋さんや商品を加工してくれる工場さんと相談しながら、どの素材を使うのが最善かを話し合いながら決めていけば、より良い商品につながっていきます。

<革の染色について~染料仕上げと顔料仕上げ、とその間。>

以前、皮から革にする「なめし」について書きました。なめした後、革は色をつけて仕上げされ、いろいろな製品に使われ、世の中に出ていきます。

色付けの仕上げ方法

その色付けの仕上げ方法は、おおまかに4個に分けることができます。

  • 素上げ
  • 染料仕上げ(アニリン仕上げもここに含まれる)
  • 顔料仕上げ
  • セミアニリン仕上げ

それぞれメリット、デメリットがあり、いいところを生かして商品に落とし込まれます。

素上げ

名から伝わるかも、とも思いますが、革に何も染色をしていない、素のままの革のことです。何もしていないので、革本来の質感を感じることができます。
イメージしやすいものとして、肌色のヌメ革などでしょうか。使っていくと、経年変化を楽しめます。デメリットとしては、耐久性、耐水性、耐熱性に劣ります。シミになりやすい。素のままなので、お化粧をしていない状態です。

人もお化粧をしたら、紫外線などをブロックします。そう考えると素上げは「すっぴん」。そう考えると分かりやすいですね。blueoverのmikeyの豚ライニングは素上げです。

染料仕上げ(アニリン仕上げもここに含まれる)

染料を染めるための方法のひとつです。水や溶剤に溶かして革を染め上げます。革の表面だけでなく、組織の内部まで色をつけ、革独特の風合いを生かしたままで、透明感のある色調の表現ができます。表面は素の状態に近い仕上がりになるため、本来の手触りや見た目がそのまま。革らしさのある仕上がりです。

デメリットとしては水に弱く、色落ちしやすいです。また、スムース革の場合、革がきれいでないと革本来の傷や模様が目立ちます。ステアなどの大きな牛は喧嘩したり、虫に刺されたり、暮らしてきた中で革になるので、染料仕上げはあまり使われません。カーフやキップなど小さい牛に使われることが多いそうです。

ただ、blueoverでは定番のmikeyの表革に使われます。mikeyはベロア。起毛革なので、染料のみの仕上げになっています。

アニリン(合成染料)仕上げというのは、染料仕上げの中の一つです。染料といっても、草木染やカゼイン(牛乳などに含まれるたんぱく質)染めの天然染料などもあるわけです。

染料のなかで頻繁に使われているのがアニリンになります。タンニンなめしの革もクロムなめしの革もよく染まるためです。なのでアニリン仕上げという言葉をよく聞くのです。

顔料仕上げ

革をコーティングして傷やシミを隠すことに使われます。顔料を塗布したら、革は色も雰囲気も均一に仕上げることができ、鮮やかな色も表現できます。

デメリットとしては、顔料だけの革の中には、引っかき傷などがつくと、塗布している部分が剥げてしまって、目立ちやすいものもあります。顔料をたくさん使いすぎると、厚化粧をしている状態なので、革本来の味わいが減ってしまいます。

メリットもあります。膜を貼っている状態なので、耐久性もあります。手入れもささっと簡単。水にぬれても色落ちがしにくいです。

セミアニリン仕上げ

アニリン仕上げと顔料仕上げのいいとこどりをした仕上げ方法。染料をメインに、顔料をほんの少し使うことで、革の傷やシミなどを隠してくれます。また染料だけで希望の色を作るのはとても難しく、最終的な色あわせにも顔料を使います。液体のときは希望の色でも革に染み込むと違ったなんてこともあります。

顔料が少しだけなので、革本来の質感もあり、艶感や透明感のある表情。
素上げや染料仕上げよりは劣るものの経年変化も綺麗に楽しめます。ほとんどの革の仕上げはこの方法だと言われています。色落ちもしにくく、車のシートやソファなどにも使われますよ。

blueoverでは『おかっぱ』がいい例でしょうか。

白は染色だけで表現するのは難しく、顔料のみで作られることも多い色です。『おかっぱ』で採用しているスムース革は、セミアニリン仕上げを採用しています。うすく顔料をのせることで綺麗な白を表現し、メインを染料にしているので、艶感・透明感があり、革本来の雰囲気は楽しんでいただけます。

余談

タンナーさんから聞いた話。革の汚れ落としに、ラバー消しゴムや、砂消しゴムなどを使うときがありますが、食パンもおすすめだそうです。消しゴムを使うより革の表面を傷つけないので色落ちしにくいそう。

パンくずだらけになるかと思いますが、お試しあれ。

<靴の裏革ライニングの話>

ライニングという言葉を聞いたことありますか?言葉の語源はライナー(liner)で、調べてみると意味は以下のようにありました。

ライナー【liner】 の解説
1 野球で、空中を低く直線的に飛ぶ打球。ラインドライブ。
2 定期船、定期旅客機、または定期長距離列車。
3 取り外しができるコートなどの裏。また、保護用の裏張りや覆い。
4 線を引く道具。「アイライナー」
<goo国語辞書より>

ここで私たちがいうライニングは、靴のアッパーの裏地になる部分なので、③の『保護用の裏張り』を指しています。

下の写真でみてみると、足が入って肌に接する白い部分(青い革の裏側)がライニングになります。保護だけでなく、足の汗を吸い取ってくれるので、靴の中の環境にも関わってきます。

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blueoverで採用しているライニング

私たちが採用しているライニングをご紹介します。

  • 豚ライニング
  • 牛ライニング
  • ファブリック

豚ライニング

薄くて軽く、摩擦に強いです。通気性にも優れているため靴のライニングとして、よく使われます。

日本では豚革は100%自給自足できる革なので、革の中では比較的安価に手に入ります。色の再現性も高く、レディースからメンズの幅広い年代で用いられます。

blueoverでは、mikey、おかっぱ、SHORTYなど(腰裏)に用いられ、素上げのものを採用しています。おかっぱ、SHORTYではライトベージュ、mikeyはホワイト。

ライニング屋さんからは『白っぽい色』は嫌がられます。保管していたら、黄ばんでくるので、売り物にならなくなるそうで、取り扱いしているライニング屋さんが少ないです。ライトベージュもホワイトも、探しに探して、たどり着いたライニング屋さんから購入させていただいています。

牛ライニング

豚ライニングより、肉厚です。丈夫で、通気性、吸湿性、耐久性に優れています。毛穴も小さく、見栄えのよさからも高級靴にも用いられる素材です。

blueoverでは、もともと素上げの牛ライニングを使っていたのですが、色ぶれがあり、今は素上げのうえに少しラッカーを吹いて仕上げた革を使っています。キャメルの色を東京のライニング屋さんと一緒に作りました。マッケイ製法のmarco、グッドイヤーのPHOLUSというモデルで採用しています。

この2モデルの中敷は同素材のカップインソールになっています。

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ファブリック

一部モデルに機能素材を使っています。通気性、速乾性が抜群で、除菌抗菌性を持つものも多いです。見た目もスポーティなので、スニーカーらしさが表現できます。また、革のライニングの靴と比較すると、足馴染みも早くなります。

blueoverではニットやナイロン不織布にウレタンを貼って使います。mikeyやSHORTYに採用しているのですが、mikeyでは爪先部分の先裏なので、パッと見て分かりにくいかも知れません。

あとがき

日本の靴で、ライニングは革やファブリック以外にも合成皮革や人口皮革、生地などいろいろなものが採用されています。パッと見えにくいところなので、ご購入のときにあまり気にしていない方々も多いかもしれません。

ただ、本来の目的が満たされていないことも多いです。

足を保護してくれること。汗を吸い取ってくれて靴の環境よく保つこと。

この点を注意して、ご購入時にライニングも少し意識してもらうと、靴を長くご愛用できるかと思います。

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